最近の博物館の展示は非常に親切で,どこに注目してどこを見比べればよいのかを説明してくれています.しかし気を付けなくてはなりません.我々が好きな骨や骨格は3次元なのに,説明文は1次元,説明図でも2次元です.
今回も題材は国立科学博物館の特別展「鳥」です.本展では,鳥類と他の生物との類縁関係を紹介することを目的として,恐竜類の化石との比較展示が設けられています.その中の脳函キャストの展示に注目してみます.
脳函は,脳などを取り囲む骨で作られた函状の構造体です.展示されているのは,この函を雌型 (mold) として作った雄型 (cast) です.骨そのものではありませんが,骨のカタチを正確に記録したモノです.脳のようにも見えますが,脳のカタチを正確に記録したモノではありません.つまり,どちらかと言えば骨です.
この展示では,ご丁寧に脳の"本体"とそこから生える"配線部品"と,隣接する"センサー部品"とをそれぞれ青・黄・赤で塗り分けてくれています.「眺める」だけでも,脳やセンサーのカタチの違いはなんとなく違うとわかるでしょう.
しかし我々は3次元の住人です.どこから見るかによって,見える像のカタチは異なります.標本を見る向きを揃えなければ,標本の比較はできません.
見る向き,というのはどちら向きでしょうか.上から,横から,前から,など色々ありますが,それは何に対しての上・横・前なのでしょうか.我々はついつい,展示スペースの正面と骨の正面が一致していると勘違いしがちですが,そんなことはありません.そもそも「骨の正面」とはなんでしょうか.
したがい我々は自力で「骨の正面」を定義しなくてはなりません.誤解を招くような言葉遣いさえしなければ (後で詳しい人が適宜読み替えてくれるので),勝手に決めて構いません.
今回筆者は正面を決めるために二つだけ天下り的なルールを使いました.一つは,脊椎動物はだいたい左右対称であり脳函も左右対称であろうということ,もう一つは,脳のオマケとくっついている三半規管は水平面の基準になるということです.そうして,左右対称なパーツが重なって見えるように,かつ,三半規管の一つが画面の水平に揃うような向きを探し,それを「正面」としました.
このように,僅かな知識と僅かなランドマークによって「骨の正面」を決めることで,モノの比較は格段に容易になり,新たな発見にも繋がります.
大抵の場合,展示標本に触れることは禁じられています.標本や什器に触れず,周りの邪魔にならない限りで,見る場所を変えて覗き込まなくてはなりません.ときには周囲から奇異の目で見られることもあるかもしれませんが,それはそれです.
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