我らが師匠"骨の伊藤"は,その師匠から「骨ってのは肉と肉の間に詰まったカスだ」と喝破され衝撃を受けたそうです.骨好きは,特に恐竜をはじめとする古脊椎動物の化石骨を愛好していると,ついつい「骨が先,肉が後」と思いこみがちですが,実際には「肉が先,骨は後」です.では,骨から出発して筋肉に至るにはどうしたらよいでしょうか.
普通我々は「骨格標本を見る」というとき,当然骨格標本を前景として見ています.骨が肉ではない空間領域であるなら,この前景と後景を逆転することで,我々は肉を見ることができるはずです.
前景・後景を逆転させるためのヒントは凹面です.骨を前景に見ているとついついその突起や膨らみに注目してしまいますが,逆に見るなら,筋肉の方こそ風船状に膨らんだ凸面からなる物体であり,骨はその雌型であるため主に凹面や鞍面からなります.
Dasypusの例では,特に下腕を構成する尺骨と橈骨に注目するとよいでしょう.骨は(幾らか捩れたような)凹面だらけで,突起や稜線はそれら凹面と凹面の交差部にあたります.また,凹面は複数の骨を跨いでいることにも気づくはずです.この凹面を型にして凸面を作ると,筋肉のカタチになります.
筆者の経験上,最もよい例の一つが異節類です.異節類の骨は比較的多くの目立つ突起や稜線が多いのが特徴です.つまり,”肉と肉の間"の多くが骨となっています.このようにわかりやすい例で「目慣らし」をしておくと,他の動物の骨でも肉が見えるようになってくるでしょう.
筋肉を骨と骨を繋ぐモノと見て,その起始と停止を認識し,その名前を覚えることはもちろん大事です.しかし抽象的な(長さや太さのない)有向グラフから具体的な(長さや太さのある)筋肉のカタチを想像するのは少々困難です.前景と後景の入れ替えは,肉のカタチを根拠をもって"想像"する手段としてかなり有効なはずです.
「骨は筋肉と筋肉の隙間にたまったカス」(三木成夫)
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