爬虫類の頭蓋による分類Ⅱ トカゲ、ヘビ編

2024-11-24

WB見学記 てっさん 爬虫類

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第1回のWB見学記(爬虫類の頭蓋による分類)では「Sayakaさん」が側頭窓による爬虫類の分類について紹介し、さらにカメ類の標本写真の数々をご紹介しました。


2回となる今回は私「てっさん」が、爬虫類の双弓類の中でもトカゲ・ヘビ類を中心にお話をしたいと思います。


おさらい (~弓類の意味)


まず、前回のおさらいとして爬虫類の分類に出てくる「〜弓類」とはどういう意味なのか、簡単にご説明します。
我々哺乳類の先祖にあたる単弓類も含め、爬虫類は「側頭窓」という穴と後眼窩骨・鱗状骨の位置によっていくつかに分類されています。

代表的な例を挙げると

・無弓類:パレイアサウルス 等
・単弓類:ディメトロドン、キノグナトゥス 等(哺乳類に続く系譜)
・双弓類:カメ類、トカゲ類、ヘビ類、ワニ類、恐竜類、鳥類
・広弓類:長頸竜類(ピー助 等)
・側弓類:魚竜類

上記の広弓類、側弓類は双弓類から進化したとされており、彼ら以外にも双弓類からはトカゲ類→ヘビ類のグループと、ワニ類→恐竜類→鳥類のグループ、そしてカメ類のグループが輩出されています。

ムカシトカゲ(Sphenodon)の頭蓋

ムカシトカゲ 頭蓋 上から
ムカシトカゲ Sphenodon sp.

ムカシトカゲ 頭蓋 横向き
ムカシトカゲ Sphenodon sp.

前方から鼻孔、眼窩、その後ろに頭の上に上側頭窓、側面に下側頭窓と2つの側頭窓が開いているのがはっきりとわかります。
ムカシトカゲは「ムカシ」の名の通り、トカゲ類よりも古い双弓類の形質を残している一方で、「トカゲ」という名に反してトカゲ類よりもさらに古い時代に分岐した双弓類とされています。

オオトカゲ(Varanus)の頭蓋

コモドオオトカゲ 頭蓋 上から
コモドオオトカゲ Varanus komodoensis

コモドオオトカゲ 頭蓋 横向き
コモドオオトカゲ Varanus komodoensis

おそらく爬虫類飼育者でなければ、「オオトカゲ」と聞いて真っ先に頭に浮かぶ種でしょう。他のオオトカゲ類の頭蓋と比較して、とにかくガッチリしています。
オオトカゲ類はどちらかというと頸が長く、小顔でシュッとした(非科学的オノマトペ)種が多いのですが、例外的存在が有名になってしまう例の一つです。

そんなことより着目していただきたいのは、側頭窓です。

眼窩の後方、頭の上面に上側頭窓が開いているのはムカシトカゲと同じですが、側面の下側頭窓を見てください。下縁の部分がなくなり、下側頭窓自体が半月状になっているのがわかります。

なお、本種は各種メディアで「現代の恐竜」と形容されることの多い爬虫類ですが、ここで「恐竜」の永遠かつ至高の代表(個人の意見です)であるティランノサウルスの頭蓋と比較してみましょう。


ティランノサウルス 頭蓋 横向き
ティランノサウルス Tyrannosaurus rex

全然違いますね。
側頭窓があるのは共通ですが、T. rexの下側頭窓の下縁はオオトカゲのように消失しておらず、穴を維持しています(T. rexの側頭窓については非常に複雑なので割愛します)。
また、眼窩の前に前眼窩窓という穴が開いているのもT. rex等の獣脚類の特徴です。


ミズオオトカゲ 頭蓋 横向き
ミズオオトカゲ/サルバトールモニター Varanus salvator

下顎を外したミズオオトカゲ 頭蓋
ミズオオトカゲ/サルバトールモニター Varanus salvator

タイのバンコクにあるルンピニ公園で堂々と寝っ転がっている巨大なオオトカゲ類は本種です。
名前の通り水棲傾向が強いオオトカゲ類で、魚はもちろん何でも捕食します。
やはり下側頭窓の下縁は消失しています。

ミズオオトカゲ 色分けで示した骨
骨の位置関係

特に下顎の歯骨と鉤状骨、上角骨、角骨を繋ぐ部分が比較的柔軟になっているようで、ここを横に広げることで大きなカメをそのまま呑み込んで捕食することもできるようです。

「顎を横に広げる」というと、シン・ゴジラのように歯骨の先端部分をガバッと(非科学的オノマトペその2)広げるイメージがあるかもしれませんが、オオトカゲ類は歯骨の先端ではなく、後端部分が広がるイメージです。

私見ですが、これはオオトカゲ類の捕食行動が生きている獲物を顎で捕まえて、そのまま歯でロックしながら飲み込む動きをしているため、歯骨の先端が開いたら捕獲・拘束ができなくなってしまうのではないかと思います。


ナイルオオトカゲ 頭蓋
ナイルオオトカゲ/ナイルモニター Varanus niloticus

ミズオオトカゲ同様、水棲傾向もあるオオトカゲ類ですが、この種はアフリカに生息するオオトカゲ類です。種によって頭蓋の形状が異なるのは興味深いですね。
こちらはミズオオトカゲよりもさらにシュッとした(非科学的オノマトペその3)印象を受けます。

側頭窓の形状は他のオオトカゲ類と同様です。
ではオオトカゲ類以外のトカゲ類の頭蓋はどうなっているのでしょうか。

ということで、イグアナの頭蓋を見てみましょう。

イグアナ(Iguana)の頭蓋

グリーンイグアナ 頭蓋
グリーンイグアナ Iguana iguana

オオトカゲ類と比較して、全体の形状がムカシトカゲに似ている印象を受けます。ただ、よく見てみると、ムカシトカゲとは大きく違うポイントに気づきます。

そう、側頭窓です。

イグアナの下側頭窓もやはりオオトカゲ類のように下縁が消失しています。
やはり、ムカシトカゲは「ムカシ」(のプリミティブな特徴を残す)トカゲなわけです。

ニシキヘビ(Python)の頭蓋

アミメニシキヘビ 頭蓋
アミメニシキヘビ Malayopython reticulatus

下顎を外したアミメニシキヘビ 頭蓋
アミメニシキヘビ Malayopython reticulatus

アミメニシキヘビ 頭蓋 口蓋面
アミメニシキヘビ Malayopython reticulatus

ヘビ類はオオトカゲ類に近縁な爬虫類から進化したと言われていますが、頭蓋を見ると全く別の形の生き物になったことがわかります。
側頭窓を探したんですが、ご覧の通り、とんでもないことになっています(語彙力)。

オオトカゲ類にはあった上側頭窓の位置から下側頭窓の場所まで一つの穴になっています。
つまり、これは上側頭窓の下縁が消失して、下側頭窓と一体化したのです。
そのうえ下側頭窓の下縁もトカゲ類と同様に消失しているので、大きな穴が開いているように見えます。
いやこれもう一周回って単弓類じゃ…

さらに口蓋面を見てみましょう。

アミメニシキヘビ 色分けで示した骨
骨の位置関係

とんでもないことになっています(語彙力その2)。
上顎骨だけでなく、口蓋骨、翼状骨にも歯が生えています。

ちなみに、私はパイソンではなくボアを飼育しているのですが、機嫌を損ねて噛まれた時に上顎骨歯だけでなく口蓋骨歯の跡まできっちり傷跡がついた際には思わず感動したものです。

なお、噛まれるともちろん痛いのですが、この歯の形状を見ていただくと分かる通り、この歯はオオトカゲ類のように生きた獲物を捕まえて切り裂きながら顎の力で押さえつける歯ではありません。

地表生のニシキヘビやボアは獲物に噛みついたら、そこを支点に巻き付いて、相手を締め殺した後に呑み込んでいく生態なので、歯は暴れる獲物を押さえ付けたり殺すものではなく、死んだ獲物を喉の奥に押し込んでいくベルトコンベアーの「歯」のような役割を果たします。
そのため、後方に反った細い針のような形をしています。

なお、オオトカゲ類には噛まれたことがないので痛みを比較できませんが、絶対痛いに決まっているので絶対噛まれたくないです。

コブラ(Elapidae)・クサリヘビ(Viperidae)の頭蓋

インドコブラ 頭蓋
インドコブラ Naja naja

毒ヘビ類の代表、コブラの頭蓋です。
先ほどのパイソンと比べてみてください。
全く別の生き物のように特殊化しています。

また、意外な点としてコブラの毒牙はそれほど大きくないことがわかります。
ただし、やはり側頭窓はパイソンと同様に上側頭窓の下縁が消失し、下側頭窓と一つになっています。

ガラガラヘビ 頭蓋
ガラガラヘビ Crotalus sp.

ガラガラヘビは毒ヘビ類の中でもコブラ科ではなく、クサリヘビ科に属しています。こちらの側頭窓もやはり他のヘビ類と同様です。
コブラと比較すると、非常に伸長した毒牙が注目すべき特徴であることがわかります。

ガブーンバイパー 頭蓋
ガブーンバイパー/ガボンアダー Bitis gabonica

ガブーンバイパー 頭蓋 口蓋面
ガブーンバイパー/ガボンアダー Bitis gabonica

毒ヘビ類の中でも、最大の毒牙を持つガブーンバイパーの頭蓋です。
こちらもクサリヘビ科に属するヘビ類で、側頭窓は他のヘビ類と同様です。
毒ヘビ類に共通している口蓋面の特徴を見てみましょう。

ガブーンバイパー 色分けで示した骨
骨の位置関係

とんでもないことになっています(語彙力その3)。

先に挙げたパイソンと比べて欲しいのですが、まず上顎骨が短く前方に位置しており、そこから左右それぞれ3本の歯が生えています。これが毒牙です。
一方でそれより後方の歯はというと、これは実は口蓋骨・翼状骨から生える歯だけなんですね。

上顎骨が長く、口蓋骨が短めのパイソンとちょうど逆の関係になっています。

同じヘビ類とは思えないほど、本当にとんでもないことになっています(語彙力その4)。

※今回紹介した毒ヘビ類は全て特定動物なので、新規の飼育はできません。生体を見たい方は動物園かスネークセンターに行きましょう。

まとめ

双弓類と一言でまとめられてはいるものの、ムカシトカゲ、トカゲ類、ヘビ類を比較すると骨の形状、位置が全く異なり、そもそも「弓」の数自体が違うことがわかりました。

WB見学後に調べてみたら、トカゲ類の中でも私が飼育しているアオジタトカゲなんかは「弓」がどこにあるかわからない目つきの悪いアンキロサウルスのような頭蓋でしたし、毒ヘビ類の中でもヤマカガシのような後牙種はどんな頭蓋なのか気になって仕方がありません。

「分類」の難しさ、そして一種一種の特徴がどのように受け継がれて、どのように変わってきているか、トカゲ・ヘビグループを見るだけでも多くの発見がありました。
皆さんも生き物を見る際にはその生き物の骨がどんな形をしているのか、考えながら見てください。

きっと面白いと思います。

トカゲ・ヘビ類の記事はもっと短くまとめられるかと思ったのですが、改めて写真を見てみると、あれやこれやツッコむポイントが多くて長くなってしまいました(汗)

結論、「爬虫類はいいぞ!」

“骨の伊藤”の弟子たち(自己紹介)

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